2023年3月25日土曜日

宮古島にある犬猫保護団体の光と影


 ♪ お魚くわえたドラ猫 追っかけて~

  ご存じサザエさんのオープニング主題歌です。ドラ猫とは、野良猫の中でも、人の家に上がり込んで食べ物を失敬するような、悪い猫という意味だそうです。


 最近ではめっきり少なくなった野良猫、野良犬ですが、その背景には、保健所の奮闘と、ボランティア団体の活躍があります。

 今回は、宮古島で犬・猫の保護活動を行うある団体にまつわる、もの凄く難しくて厄介な問題について取り上げます。

 


 動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)という法律があります。飼い主不在の犬・猫は、原則として保健所が引き取ります。

 保健所は、引き取った犬・猫を一時保護し、別の引き取り手を探します。保健所で引き取り手が見つからなかった犬・猫は、最期は殺処分されます。

 令和3年度(2021年度)は、全国で、犬2,739頭、猫11,718頭が殺処分されました。
 これでも、かなり減った方で、平成28年度(2016年度)以前は、その数が、合わせて5万頭を、平成21年度(2009年度)は、20万頭を超えていました。


 コロナで保健所が忙殺されたことは周知のとおりですが、保健所は他にも重要な業務を担っており、犬・猫に割ける予算もマンパワーも限られています。


 保健所で引き取り手の見つからなかった犬・猫が殺処分されてしまわないよう、引き取って一時飼育し、新たな飼い主を見ける活動をしている人達がいます。

 こういった活動は日本全国で行われており、統計数字はハッキリしませんが、おかげで命を繋ぐことができたワンコやにゃんこの数は、相当な数に上ります。


 宮古島にある「宮古島 SAVE THE ANIMALS」もそんな活動を行う団体です。




 この団体は、2019年の設立ですが、輝かしいキャリアがあります。

 テレビ番組に何度も登場しているのです。何とか動物園とか、何十時間テレビとか。

 創業者が昔何かやらかしたと問題になっている、某事務所のスーパーアイドルが、団体の施設を訪問して保護犬の世話をし、その後の番組では、保護犬を引き取ったお宅を訪問して再会するという、感動ドラマの舞台にもなりました。

 そのおかげで、知名度は格段にアップし、寄附も増加したそうです。エンタメ会社の会長から、1千万円という高額の寄附があったことも報じられています。



 その一方で影もあるようです。

 なんと、あの文春砲が、団体と近隣のトラブルを報じたのです(2022年8月31日文春オンライン)。

 それによれば、

 近隣の住民に説明がなく突然開設された
 犬・猫の鳴き声がうるさい
 犬の糞が地域のゴミ捨て場に大量に捨てられた
 放置された大量のペットフードをカラスやネズミがあさりに来る
 犬の散歩のために畑などに無断で入り込む
 市に間に入ってもらい施設の閉鎖を約束したがそれを果たしていない

 ということが問題になっているのだとか。




 自分もその場所に行ってみました。周辺は、サトウキビ畑と家屋が点在する集落です。確かに、犬が吠えていました。

 広い敷地なので、騒音というほどでもないように思いましたが、キャインキャインと甲高く鳴く犬もいて、四六時中これを聞かされていたら、ちょっと辛いかも知れません。

 
 また、この施設は、一般の見学を受け付けていません。

 多くの施設では、見学者を積極的に受け入れることによって、新たな飼い主を開拓すると共に、ボランティアや寄附を募るものなのですが。


 一方、ホームページはきちんと作成されており、譲渡会(飼い主を探すためのイベント)も行われていて、月毎の会計報告もされています。



 文春砲が炸裂した直後の9月6日、NEWSポストセブンもこの問題を報じました。施設を訪問し、代表から話を聞いていますが、その言い分としては、

 保護施設が使えなくなった別の団体から、保護犬約60頭を引き取って始めた。

 元々は、ブリーダーが犬を飼育していた土地の提供を受けたもので、自分が開拓したわけではない。

 メーカーからペットフードの提供の申し入れがあり、数量をよく確認しないで受けてしまったところあまりに膨大な量で、処理するまでに時間がかかった。

 事前にあいさつをしなかったことは詫びた。規模は縮小しているが、すぐに出て行けと言われても、今いる犬・猫を見捨てるわけにはいかない。

 高さ7メートルの壁の設置を約束したが、建築基準法違反だったため、適法な範囲で設置した。二重窓の設置などは対応した。衛生面の対処もした。

 ということのようです。 




 以前自分は、神奈川県内のとある犬猫保護団体で、ホンのちょっとだけお手伝いをした経験があります。

 ここの主宰者は、経営者であれば若手の部類ですが、その手腕は確かなもので、様々な方法で資金を集め、次々に事業を拡大し、保護犬・保護猫の数を増やしていきました。

 もし、この人が営利事業でこの才覚を発揮していたら、青年実業家として名をなし、都心のタワーマンションに住み、高級外車を乗り回していたかも知れません。

 しかしこの人は、その経営手腕を薄幸なワンコやにゃんこのために振るいました。

 とても真似できないことだと思いましたが、それでも、内部には慎重意見もありました。
 これ以上手を広げず、今できることを手堅くやるべきだと。万一破綻したら、路頭に迷った犬・猫は最期は殺処分されることになるからと。

 

 これは、特殊なケースでしょう。

 保護団体の主宰者には、犬・猫に対する情熱はあっても、施設経営や、ボランティアの人事労務管理の経験があるとは限りません。

 活動するに当たって、想定外の難題に直面したとき、それをスマートに解決出来なくても、ある程度やむを得ない面があると思います。



 文春砲の「事前に説明がなかった」という部分がちょっと引っかかりました。

 代表は移住者とのことですが、元々ブリーダーが犬を飼っていた土地だし、県の許可を受けているし、お隣さんといっても何十メートル、百何十メートル先という敷地だから、一々説明は不要と考えたのかも知れません。 
 いや、普通はそう考えるでしょう。

 ただ、ここは島です。人間関係が都会とは比べものにならないほど濃厚です。郷に入れば郷に従えと思う人も当然いるでしょう。


 別の事情もありそうです。

 冒頭の写真をご覧になってお気づきでしょうか。この犬にはあるべきものがありません。鑑札(首輪)です。
 この写真は、宮古島で2020年7月に撮ったものです。


 都会では、野生の犬に遭遇することは滅多にありませんが、島では時々見かけます。人に刃向かわないので、もしかしたら、飼い主がいるのかも知れません。

 鑑札があっても、放し飼いにしたり、散歩の時にリードを離して自由に遊ばせる飼い主もいます。
 島は人が少なく、ペットを遊ばせる場所がいくらでもあります。

 地域猫とすらいえない、半野良猫も沢山います。ホンの十数年前までは、生まれた子猫を海岸に捨ててくることも珍しくなかったと聞きます。
 今なら動物愛護法違反ですが。


 そんな環境下では、保護活動の意義は伝わり難かったかも知れません。説明の件と併せて、スタート時点で、ボタンの掛け違いがあった可能性があります。

 さらに、テレビに出たことで、掛け違えに拍車がかかった気がします。


 日本中に同じような施設がある中、何故ここがテレビ番組に登場したのか。それは、宮古島だからでしょう。

 リゾートの島、海が綺麗な島は、絵になるし、話題にもし易い。
 そこで感動ドラマを仕立て上げれば、視聴者に強いインパクトを与えることができると考えられたのではないでしょうか。


 その影で、日頃から多少なりとも我慢を強いられている人達は、このような感動ドラマを素直に受け入れられるでしょうか。
 もし自分ならば、無理だと思います。

 文春砲がこのような地域の問題に炸裂したのも、感動ドラマの舞台裏だからです。光に照らされたからこそ、その影をあぶり出したはずです。




 この話には、オチがありません。

 目的は真っ当であり、是非頑張っていただきたいと思います。しかしその一方で、我慢を強いられている人達を放置することはできません。

 何処か人が住まない場所に移転できれば良いのでしょうが、それには金がかかるし、その金で、もっと保護犬・保護猫の数を増やせという意見もありそうです。

 閉鎖ということになれば、宮古島で、犬・猫の殺処分が増えるかも知れません。
 子猫を保護して、SNSなどで飼い主を探すといった個人間のネットワークもあるようですが、いかんせん、保健所に持ち込まれる犬・猫がなくならないのです。



 もっとも、この記事をきれい事で締めくくるのは簡単です。

 「当事者間でよく話し合ってほしい」とでも書いておけば、取り敢えずまとめにはなります。

 テレビのニュース番組だと ” 専門家 ” なる人物が登場し、「行政がきめ細かな対応をすべきだ」と言い出しそうな場面です。

 「どちらも、テレビの視聴率至上主義の犠牲者だ」なんて書いてみれば、かっこいい結びで終えることができそうです。

 でもそれでは、当事者にとってはクソの役にも立たない戯れ言でしかありません。



 この記事を書くに当たって、島の知り合いにも話を聞いてみました。

 団体に関して、良くない評判が少なくなかった一方、きちんとしているという好意的な評価も少しありました。
 譲渡の際の審査が厳しいという声も聞きましたが、これはしっかりした飼い主に譲渡するという趣旨ならば、むしろ賞賛すべきことだろうと思います。



 一時興味は持ったものの、なかなかに難しい話なので、そのままお蔵入りにするつもりでしたが、人の勧めもあって記事にしました。

 問題があります、でも解決策は思い浮かびません、というだけの薄っぺらい内容の記事ですが、高級ホテルが次々と建つバブリィな宮古島には、一方で、影の部分もあるのだということを知ってもらうだけでも、全く無意味ではないと思い直したからです



 宮古島には、幸せそうなにゃんこもいます。




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