2022年1月16日日曜日

沖縄で恋をした男と女の物語(沖縄移住の光と影)

 

 今回のテーマは、沖縄移住についてです。
 そしてこれからお話しする物語は、全て実話です。

 
(写真と本文は関係ありません)



 うだつの上がらないサラリーマン生活に嫌気が差し、30歳になったのを期にリゾートの島に移住してきた、東京出身のT君。

 仕事は見つかったものの、時給いくらのアルバイト。職場の人間関係にも馴染めず、こんなはずでは・・・というお決まりのパターンかと思われたのですが、そんなT君に救いの手を差し伸べたのは、島の若手移住者のコミュニティ。

 20代から40代位の移住者男女の緩い繋がりで、飲み会やビーチパーティーと呼ばれるBBQを定期的にやっていました。
 特に楽しかったのは、誰々の友達が島に遊びに来たから歓迎会、といったイベントがしょっちゅうあって、交友の輪がドンドン広がったことでした。

 遊びに来た女子観光客の中には、車の免許を持っていない、ペーパードライバーで運転に自信がないという人も多く、変形労働で4日に1日休みが回ってくるT君は、日曜日しか休みのない他のメンバーに頼まれて、彼女達を車で案内します。

 若い女の子を海に連れて行っては喜ばれ、写真を撮ってあげては喜ばれ、しかも他のメンバーからは感謝される、こんな美味しい話はないと思ったそうです。

 元来几帳面な彼は、何処のビーチがいいか、何処の店でランチすると女子ウケするのか、徹底的に研究し、”ガイド業”に邁進したのでした。


 そんな折、T君の前に現れたS子さん。

 ダイビングのライセンスを取るため、島に長期滞在していた彼女ですが、島が気に入って、ついには移住者に。

 人懐っこく面倒みの良いキャラで、誰とでもすぐに仲良くなります。

 ほぼ一目惚れだったというT君。S子さんに猛アプローチを始めます。
 ”ガイド業”で培ったノウハウを活用して、島の案内と称してデートに誘い、最後はS子さんに、「あの雰囲気にやられちゃった」と言わしめたシチュエーションで彼女をゲットします。

 ほどなくしてS子さんと同棲を始めたT君。コミュニティの仲間からは祝福といじりの嵐。幸せ絶頂のT君は、彼女との結婚を真剣に考え始めます。

 しかし、結婚となるとネックは仕事。T君の仕事は、ある意味専門職で、給料は一般的なアルバイトの時給よりは高かったのですが、それでも立場はアルバイト。ボーナスもなく、貯金もほとんどできない生活です。

 一方のS子さん。仕事は、短時間のバイトのみでしたが、愛想が良く顔の広い彼女は、あちらこちらから声が掛かります。
 ダイビングショップの手伝いをしてくれとか、飲食店で人出が足りないから来てくれとか、中には、急遽那覇に行くことになったので家に来ておじいの面倒をみてほしいという依頼もあり、引く手あまた。

 それなりの稼ぎがあるだけではなく、お礼として缶ビールだの、ホテルのランチ券だの、ゴーヤとナーベラーが段ボール箱一杯だのが届きます。

 そんな状況に、内心穏やかではなかったT君ですが、追い打ちをかけるように、会社から契約打ち切りを告げられます。
 コミュニティの仲間の紹介で、すぐに新しい仕事は見つかりましたが、条件は前より悪く、結婚は遠のくばかり。

 T君は、一大決心をしてS子さんにこう切り出しました。「東京に帰る。向こうで仕事に就いたら連絡するから、一緒に来てほしい。」

 唐突な話に、S子さんは戸惑い、コミュニティ仲間に相談します。

 コミュニティのメンバーは、皆、T君が東京に帰ることに反対しました。
 「多くの若い人が簡単に移住し、簡単に帰ってしまう。それだから島の人の信頼が得られないのだ。もう少しがんばれ。」と。

 これは、T君にとっては想定外でした。頼りにしていたコミュニティ仲間に、まさか反対されるとは。

 元々T君は、強い決意をもって島に移住した訳ではなく、今はS子さんとの結婚が大事とばかり、仲間に背を向け東京に帰ります。

 しかし、東京でも思うように仕事は見つからず、結局はバイトを繰り返すことに。

 S子さんも、一旦は島を引き上げ、東京に来てくれたものの、T君の婚約者として紹介されることはなく、再び島に戻ったそうです。

 T君曰く、「一体何が悪かったのか、何が間違っていたのか、全く分からない。」と。





 「東京で生まれ、東京以外は知らず、大学卒業後地味にOLをしていた。」というY子さん。島出身で年上のXさんと職場結婚しました。

 結婚前、Xさんと共に、彼の生まれ育った島に行ったY子さん。
 初めての沖縄。リゾートホテルの部屋からから見る海はそれは美しく、一目で島が気に入ったY子さんでしたが、それよりも驚いたのは、行く先々で、Xさんの知り合いから声が掛かること。

 まだ、結婚前でしたが、「Xが嫁を連れて帰ってきた」という評判が島中を駆け巡り、飲み会やら食事会やらのお誘いが次々と掛かり、断るのに苦労するほど。

 「カッコ付けてホテルなんか泊まらず、うちに泊まれ。」という人もおり、持ち帰れないほどのお土産をもらって島を後にしました。

 Y子さんは、Xさんが島で愛されていると思い、当時は胸が熱くなったそうです。


 結婚したY子さん達は、東京で新居を構え、子供には恵まれなかったものの、満ち足りた生活を送っていました。

 結婚から2年ほど経ったある日、夫から唐突に、「会社を辞めて島に行く。友達の会社で働く。」と告げられます。
 
 東京を離れたことのないY子さんにとって、島への移住は恐怖ですらありましたが、初めて経験する夫の強引な説得を断り切れず、あの海の美しさと、夫を歓迎してくれた島の人達を思い出して着いて行くことにします。


 夫の友人の紹介で仕事に就き、島での新たな生活がスタートしました。しかし、移住後すぐに、Y子さんはある違和感を覚え始めます。

 島では、人付き合いがとても多いのですが、知り合いにとどまらず、見ず知らずの人から声をかけられることも少なくなくないのです。
 買い物に行っても、郵便局でも、市役所でも、信号待ちの交差点でも、常に誰かに監視されているようでした。

 ある日、豆腐を買おうとスーパーに行ったところ、欲しかったサイズの物が品切れ。島では豆腐も買えないのかと少し驚きましたが、まあ、そういうこともあるのだろうと、他の用事を済ませ家に戻ったところ、玄関前には保冷パックに入った豆腐が。

 添えられていたメモには、「お裾分け」とだけあり、名前も書かれていません。

 これは、有り難いを通り越して、正直不気味でした。買い物の間、誰とも話していないのに、誰がそんな細かな行動まで見ていたのだろうか。
 それを素直に喜ぶ夫にも、距離感を感じ始めます。


 もう一つ、Y子さんがどうしても耐えられなかったことは、「早く子供をつくれ」という、周りの露骨な干渉です。

 結果的に子宝に恵まれないだけで、夫婦共、子供がいらないと思っていたわけではありません。
 いかに子供が可愛いいか、蕩々と語られても辛いだけ。

 あるとき、夫の取引先に当たる50年配の男から、「Xに子供のつくり方を良く教えておいたからもう心配いらない。」とからかわれました。この時、相手は相当酔っていたとはいえ、あまりに無神経な発言にY子さんは傷つきます。


 そんなある日、東京時代の職場の同僚夫妻が、島に遊びにやって来ました。

 特別親しかったというほどではありませんが、わざわざ連絡をくれたことにY子さんは喜び、島を案内します。

 美しい海を見ながら、島の生活が羨ましいという二人に、Y子さんは鬱積していたものを吐き出します。
 驚いた二人ですが、Y子さんの愚痴をすべて聞いてくれました。
 
 このとき、Y子さんは、東京に帰ろうという気持ちが芽生えたといいます。


 それから、どういう経過を辿ったのか分かりませんが、3か月ほどが経ったある日、東京では、Y子さんの友人達による、ささやかな復帰歓迎会が行われていました。

 出席した友人によれば、Y子さんは明るく元気な様子だったので、心配はいらないと思ったそうです

 しかし、その後、Y子さんから旧姓名義での転居のお知らせはがきが届いたきり、音信不通となってしまいました。 

 



 ダイビングで沖縄の海の美しさを知り、映画ナビィの恋で三線にはまったA子さん。
 物怖じせず、人見知りしない明るいキャラで、老若男女を問わず、友達、知り合いが沢山います。

 移住した先輩の誘いで島に遊びに行き、泳ぎに行った先の海で、民宿のおばあと知り合います。
 これが、運命の出会いでした。

 孫を連れて海に来ていたおばあは、孫と遊んでくれたA子さんを気に入り、自分の宿に泊めます。

 それから約1年後、自らも移住者として島に渡ったA子さん。10万円で中古車を買い、家賃5万円のアパートに住む生活が始まりました。

 おばあの民宿を朝の3時間だけ手伝い、夕方は食料品店で売り子のバイトをする生活でしたが、おばあからは、野菜や日用品を分けてもらい、余裕はないものの、三線を習うなど、充実した島ライフを送ります。

 そんなA子さんは、同じく移住者で一つ年下のB君と仲良くなります。

 それが口実なのか、事実そうなのかは分かりませんが、アパート代を節約するためという理由で、二人は一緒に住み始めます。
 しかし、それから僅か数ヶ月で、B君は突然東京に帰ると言い出しました。理由は、夏が終わって島には仕事がなくなったからだと。

 これには、A子さんは強烈な違和感を覚えます。
 オフシーズに仕事が少なくなることなんて最初から分かっていたはず。自分より若いのに、根性なさ過ぎ。

 最後は喧嘩別れのような形で、B君は去って行きました。

 そんなときA子さんを支えてくれたのは、おばあでした。「若いうちは色々あるさ~。苦労しないで歳を取ると、後になってもっと苦労するよ~。」

 後にA子さんは、「島はいいところ。でも、唯一の欠点は、周りの人がどんどん帰ってしまうこと。」と語っています。


 移住してから5年ほど。A子さんは、やはり移住者のC君と付き合っていました。

 ある日、A子さんは、医者から妊娠していることを告げられます。A子さんは動揺しました。こんなことにならないようにお互い注意していたはずなのに。

 しかし、妊娠が事実である以上、相手はC君以外にあり得ません。A子さんは、おそるおそる切り出します。
 幸いにも、C君は子供ができたことを喜び、A子さんに結婚を申し出ます。ですが、同時に「一緒に東京に行こう。向こうで仕事を探そう。」と言うのです。

 確かに、今のままではギリギリの生活。子供を養うのは大変です。
 でも、やっと島暮らしにも慣れ、これからだというのに。東京に行ったところですぐに仕事が見つかるとは限らないし。

 C君と別れて、一人島に残って子供を産み育てようかとまで思い悩んだA子さんですが、またしても救ってくれたのは、おばあのこの言葉。

 「子供にとっては、両親が揃っている方がいい。若いのだから、向こうで頑張ってみなさい。もし、どうしてもダメなら、子供を連れて島に帰ってくればいいさ~。いつでもおばあが面倒見るよ~。」

 A子さんは、この時ほど嬉しかったことはなかったと、当時を振り返ります。


 二人は、東京で結婚し、やがて女の子が生まれます。

 酒に強かったはずのA子さんですが、出産後すっかり弱くなってしまい、ビールコップ1杯程度で酔っ払らうようになってしまいました。

 ほろ酔い気分になると、楽しかった5年間の島暮らしと、おばあのことを思い出すのだとか。





 小説風の記事は、多分これが初めてですが、ご紹介した物語は、全てノンフィクションです。

 ただ、プライバシーに関することなどは、若干書き換えた部分があります。
 東京とあるのは、内地の意味で使っており、実際は、関東近県や大阪だったりします。また、島というのは、石垣島か宮古島のどちらかです。

 込み入った話なので、関係者が特定できないよう配慮した結果、やや抽象的な書き方になってしまいました。

 それでも、リアルな移住者事情の一端がお分かりいただけたかと思います。


 ここまでストーリーのハッキリした物語ではなくても、似たような話は、ほかにいくつもあるのです。



 島人は、観光客には優しいが、移住者に冷たいと言われることがよくあります。
 これは、「郷に入っては郷に従え」ということだとずっと思っていたのですが、どうもそうではなかったようです。

 島人は、良きにつけ悪しきにつけ、親切でお節介で過干渉。それを観光客の立場で聞けば優しいと感じるし、移住者の立場で聞けば、こちらの事情に構わず、プライバシーにズケズケ踏み込んでくると感じるのではないでしょうか。


 沖縄に通って約20年。そんなに気に入っているならば、何故移住しないのかとよく聞かれます。
 移住者の知り合いも増えました。充実した島ライフを送っている人も沢山います。それでも、自分にとって沖縄移住は、まだ遠い道のりです。

 



 今年は、ブログ10年を迎える節目の年になりますが、ブログ記事数もこれで800本目となりました。

 そんなわけで、またまた、気合いの入った大論文記事を書いてしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。



  新着記事は、Twitter と Facebookでお知らせしています。

 スマホの方は、「ウェブ バージョンを表示」をタップすると各種機能が使えます。


0 件のコメント:

コメントを投稿