竹富町の訪問税についての意見

 



 竹富町は、訪問税を条例化するに当たって、パブリックコメント(意見公募手続)を実施しました。

 これは、誰でも自由に意見を述べることができたため自分も意見を提出したので、その内容、それに対する町の回答、さらには、その回答に対する自分のコメントを、ここに書いておきます。

 ほとんどが法律の話になりますが、できるだけ分かりやすく書いたつもりなので、最後までお読みいただけると嬉しいです。



 ところで肝心要の竹富町の訪問税条例案本体が、本ページ記載日現在竹富町のHPから削除されてしまっています。

 再検討中なのかも知れませんが、何を議論するのかその対象が明確にされないという不自然な状態になっていますが、今まで分かっている内容を記載します。



訪問税の概要

目的:条例案の第1条には、「多くの観光客等の来訪によって発生し、又は増幅する行政需要に対応するため」とあり、オーバーツーリズム対策と読めます。

税額:1人1回1000円。5000円で1年間使えるフリーパスを発行する。

徴収方法:石垣島から船の乗船券に上乗せする。

課税対象:竹富町の住民を除く、竹富町に行くすべての人。

税の使い道:オーバーツーリズム対策に限らず、町の判断で自由に使える。



自分の意見の要旨  ※ 全文は、最後に載せておきます。

 訪問税は、憲法で保障された国民の移動の自由に対する規制に当たる。したがって、規制措置は重要な公共の利益のために必要、かつ、合理的なものでなければならない。

 また、目的に対して規制手段(納税義務者、税率等)が相当なものでなければならない。

 類似の税制を先行導入している他自治体の例と比較すると、千円という金額は突出して高く、税率の合理的な算出根拠が示されなければならない。

 年払いによる税率が規定されているが、オーバーツーリズム対策であるならば、訪問回数が多くなるほど1回当たりの税負担が軽くなるのは制度として矛盾であり、このことからも、税率の合理性が疑われる。


 訪問前は法定外普通税(目的を定めず町が自由に使える税)とされる。
 訪問税を(オーバーツーリズム対策に限らず)一般財源として活用したいのであれば、竹富町民を課税対象としないことは、憲法が保証するの法の下の平等に反する。

 納税義務者から竹富町民を除外するならば、訪問税を目的税とし、使途をオーバーツーリズム対策に限定すべきで、税収を町の一般財源として活用するならば、町民が課税を免れる理由がない。

 本条例が施行後、訪問者から納税義務不存在確認訴訟が提起され、上記憲法上の問題点が理由とされたとき、町はどのように反論するのか。



町の回答竹富町訪問税条例(案)に関するパブリックコメントの実施結果についてより)

※ 読みやすくするため行間を空けた以外は、そのままコピペしました。


地方自治体が何に対してどう徴税するかということは議会の裁量に任せられており、広い裁量権が認められております。

竹富町訪問税は、来訪者により増幅する財政需要に対応するため、その財政需要を発生・増幅させる原因者に負担の一部を求めるという合理的な理由に基づき、地方税法等に定められた手続きに則り条例化に向けて検討を進めております。日本国憲法第 14 条及び第 22 条に抵触する恐れはないと考えております。

原案の税率については、訪問者により増大する財政需要を賄う目的から審議委員会の報告書で示された 3 案に対して、竹富町内の各島々での説明会で出された意見等を踏まえて、町長の判断により一旦 1,000 円とさせていただきました。

いただいたご意見も含めて議会にご提示し、税率について慎重にご審議いただいた上で決定させていただきます。

また、訪問者に起因する財政需要は非常に幅広いことから、使途を限定する目的税ではなく普通税といたしました。



町の回答に対する自分の見解

 ハッキリ言って、町の回答はツッコミどころ満載で、こんなの公式発表しちゃっていいのかと、こちらが不安になるほどです。


 地方自治体の課税権には広い裁量が認められるというのは、竹富町独自の見解であって、実態は、憲法や地方税法にがんじがらめにされています。
 ただ、このことを説明するのと長くなるので、後回しにして取り敢えず先に進みます。


 理由が合理的で手続が適正だから憲法に違反しないというのは、無理筋です。

 オーバーツーリズム対策という理由(目的)には自分も反対しません。しかし、目的さえ合理的なら何をして良いわけではなく、その手段(ここでは1人1回千円の税を徴収すること)が相当かどうかが、憲法レベルで問われているのです。

 そのことと関連して、千円の税額の根拠は示されませんでした。
 本来ならば、何をしたいがそれにはいくらかかる、といった話が前提になるはずですが、今回の場合は、取り敢えず税額2千円をぶち上げてみて、評判が悪かったから千円にしてみた、というどんぶり勘定です。


 「訪問者に起因する財政需要は非常に幅広いから、使途を限定する目的税ではなく普通税にした」というのは無茶振りです。 

 目的税というのは、「オーバーツーリズム対策に使う」といったように使途が限られる税金で、普通税は、町の判断で自由に使える普通の税金です。


 観光客さえ来なければ使わずに済むはずの金は観光客が負担してくれ、というのであれば、その使途が広くても、それを全て列挙すべきです。

 熱海市に別荘等所有税という法定外普通税があります。
 普通税にしたのは、別荘が増えたことで増大する行政需要(道路整備、救急・消防の強化、家庭ゴミの増大等)が、住民のニーズと重なり区分け困難だからだとされています。


 観光地にトイレを造ったり、観光客の出すゴミを処理したり、自然保護や観光客の安全確保のために規制をするといったことに使うから、観光客に負担してくれというのならば、目的税にして使途を限定してください。

 それ以外に、町営住宅の整備、保育所に維持管理、台風による農業損失に対する補助、町民の船舶利用料補助といったことにも使いたければ、普通税で結構ですが、竹富町民にも平等に課税してください。


 訪問税をぶち上げた当初、町長が地元紙に語ったのを読めば、要は町としての自主財源を確保したいということだと思いますが、町が潤うための税であれば、町民が非課税になる理由はありません。むしろ町民こそが真っ先に負担するのが筋です。

 それを、オーバーツーリズム対策に見せかけて、他地域からの来訪者にだけ負担させるのはアンフェアです。

 もし、この理屈が通るとすれば、石垣市が訪問税を制定し、竹富町民からも徴収すると言い出した場合に、竹富町には反対する理由がありません。


 税額の多寡は措くとしても、竹富町民を非課税とするならば、オーバーツーリズム対策の目的税に、逆に何にでも使える普通税としたければ、町民も課税対象にしなければ理屈に合いません。


 なお、他のパブリックコメントの中には、どの島に行くにも同じ税額なのはおかしいという意見が多かったようです。
 これに対して町は一貫して、「憲法第 14 条第 1 項の規定により「税の下の平等」(原文ママ)が厳格に定められており、同一自治体内で課税額に差を付けることは不公平な課税とみなされるため、島毎に課税額を変えることはできません。」と回答しています。

 しかし、同一自治体内で課税額に差を付けることは憲法違反ならば、住民と住民以外で差を付けることは何故憲法に違反しないのか、きちんと説明していただきたかったです。

 

 最後に冒頭の、「地方自治体が何に対してどう徴税するかということは議会の裁量に任せられてり、広い裁量権が認められております」かどうかかという問題です。

 裁量とは、判断の幅です。地方自治体が何に対してどう徴税するか、その自治体の議会が自ら決められる範囲は広いのでしょうか。


 地方自治体には、自主課税権があることは間違いありません。

 しかし、そのためには条例を制定しなければなりません。条例の制定は「法律の範囲内で」認められるのであり、税に関しては、地方税法という法律があって、その枠組みは相当厳しいとされています。


 現実に、固定資産税2倍の市とか、住民税3割引きの町というのは存在しません。訪問税類似の税金も、ごく一部の、島である市町村で、低額の課税が実施されているに過ぎません。

 今、法定外税では宿泊税がブームのようで、沖縄県でも検討中だそうですが、京都市で5万円以上の宿泊に対して千円が課税されるのが最高です。

 地方自治体の課税権に対する議会の裁量は、実際にはほんの僅かで、竹富町の主張は、善解するとしても、そうあるべきだという理想論を述べているに過ぎません。


 山形県民は1日1回笑うように努めることを定めた「山形県笑いで健康づくり推進条例」が制定されたニュースをご存じでしょうか。

 全国には、梅干しでおにぎり条例(和歌山県みなべ町)、日本酒で乾杯しよう条例(京都市)、朝はパンではなくご飯を食べよう条例(青森県鶴田町)、子どもたちのポケットに夢がいっぱいそんな笑顔を忘れない古都人吉応援団条例(熊本県人吉市)なんていう変わった条例が沢山あります。

 これらは皆、関連する法律がない分野だからこそ制定できた自主条例です。

 もし、こういった条例が税部門でも可能ならば、財政難に苦しむ日本中の自治体が知恵を絞って、様々な税金を課してくるはずです。
 それは、ふるさと納税を巡る市町村の形振り構わない姿勢からも、容易に想像ができると思うのです。




(参考)竹富町に提出した自分の意見の全文

 竹富町訪問税条例(案)は、日本国憲法第14条、第22条第1項等に抵触する恐れがある。

理由
 竹富町訪問税条例(案)(以下、「条例案」という。)は、竹富町域に行くだけで、原則として一人1回千円を一律に課すものであり、これは、憲法第22条第1項(第13条を含める説もある)で保障された移動の自由に対する事実上の規制である。
 したがって、条例案が合憲であるというためには、訪問者が竹富町に行くということが公共の福祉に反し、規制措置は重要な公共の利益のために必要、かつ、合理的なものでなければならない。
 条例案の第1条は、「竹富町への多くの観光客等の来訪によって発生し、又は増幅する行政需要に対応する」とあるが、それ自体に合理性、必要性が認められるとしても、目的に対して規制手段が相当なものでなければならず、税方式を採用する場合には、納税義務者、税率等は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的なものでなければならない。
 特に、類似の税制を先行導入している他自治体の例と比較すると、一人1回千円という税率は突出して高く、何故竹富町だけが極端な高額なのか疑念が生じるので、税率の合理的な算出根拠が示されなければならない。
 条例案第7条ただし書きには、年払いによる税率が規定されているが、いわゆるオーバーツーリズム対策であるならば、訪問回数が多くなるほど1回当たりの税負担が軽くなるのは制度として矛盾であり、むしろこのことからは、税率に合理性があるのか疑われる。
 
 条例案第2条により、竹富町訪問前は法定外普通税とされる。
 この件に関しては、町長あるいは町の見解として、「国や県におんぶにだっこという状況がいつまでも続いてはならない。今この環境をしっかり守り次につなぐために、町民の皆さんにご理解いただきたい」、「インフラや防災関連施設の整備といった来訪者を迎えるための安定的な財源の確保が課題となっている」、「将来的な投資が不可欠」といったものが地元紙等で報じられており、訪問税を一般財源として活用したい意向が窺われる。
 そうであるならば、条例案第3条第2項第7号で竹富町民を課税対象としないことは、憲法第14条で保障された、法の下の平等に抵触する恐れがある。
 納税義務者から竹富町民を除外するならば、訪問税を目的税とし、使途を「観光客等の来訪によって発生し、又は増幅する行政需要に対応するため」に限るべきで、税収を町の一般財源として活用するならば、町民が課税を免れる理由がない。

 仮に、本条例が施行された後、訪問者から納税義務不存在確認訴訟が提起され、上記憲法上の問題点が理由とされたとき、竹富町はどのように反論するのか。合理的な主張が可能であるならば、現段階でその見解を公表して議会の判断を仰ぐべきである。



※ 竹富町が実施したパブコメの結果はこちら





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