人手不足、燃油費の高騰、オーバーツーリズム、島民のバス離れなど、矛盾した課題を抱えながらも奮闘する、石垣島のバス会社、東(あずま)運輸のお話です。
バス会社ですから、お客さんが乗ってくれないことには商売にならないのですが、何しろ、島人はバスに乗ってくれない。
昨年3月に公表された石垣市公共交通計画によれば、全くバスを利用しない人が59.3%に上り、年に1回~3回しか利用しない人12.6%と併せると、島人の7割以上の人がバスとはまったく無縁の生活をしています。
逆に、ほぼ毎日バスを利用する人は僅かに0.5%なのです。
交通手段分担率では、自動車(運転)77%、自動車(同乗)6%、徒歩6%、バス1%などとなっていました。
石垣市の人口は、直近の10月末で50,151人ですから、バスを通常の移動手段としている人は500人ほど。
毎日バスに乗ってくれる人は、250人程度しかいないのです。
これでは、バス会社もお手上げでしょう。
一方、新石垣空港と市街地や離島ターミナルを結ぶ路線は堅調です。
新空港開港当初は、旧市街地を経由して終点のバスターミナルまで行く4系統と、リゾートホテル経由の10系統がそれぞれ30分間隔で運転されており、空港からは、市街地に向かうバスが15分間隔で運行されていました。
その後、空港・港直行のカリー観光バスの運行が始まり、両社仁義なき戦いを繰り広げた時期もありました。
コロナで観光客が減少する中、ホテル経由の10系統を削減しつつ、生活路線を兼ねる4系統は維持しましたが、コロナ回復後にはバス路線も回復すると思いきや、今年7月から却って減便されてしまいました。
何故? 理由は、人手不足だそうです。
(※12月から2便が復活予定)
東運輸は、占領下の昭和25年(1950年)に発足しました。
この当時は、通勤・通学と言えばバス利用が当たり前で、通勤・通学に合わせた運行ダイヤが編成されるなど、バスは住民生活に密着した存在でした。
市街地と集落の間での物品輸送もバスが行っており、車掌(当時は車掌が乗務していた)は、集落の住民から受けたメモを片手に買い物もしてくれたそうで、客だけではなく貨物も混載した車内はいつも満杯だったとか。
そんな時代もあったようです。
この会社では、もの凄くコスパの良いフリー切符を販売しています。
1日乗り放題1000円の「1日フリーパス」と、なんと5日間乗り放題2000円の「みちくさフリーパス」です。
1日券といっても、実は24時間券です。5日券にいたっては120時間券です。空港・バスターミナル間の片道運賃が540円であることを考えると、相当使い勝手のいい乗車券です。
この夏、バスに乗って、米原、川平といった観光地を巡ったのですが、短区間チョイ乗りの人を除けば大半の人は、フリー切符の利用者でした。
価格を考えると、当然でしょう。
何故こんなに気前のいい切符を売っているのか、これは想像ですが、島人がほとんどバスに乗らない中、空気を運ぶよりはマシだということではないでしょうか。
乗客がいなければ、運転手のモチベーションも上がりません。何でもいいからとにかくバスに乗ってもらいたい、そんな会社の姿勢が垣間見えるような気がするのですが。
全国のバス会社はこれまで、利用客の減少による収入減に対処するため、徹底した合理化を図ってきました。
分社化などによる総務費の削減などもありましたが、労働集約産業であるバス業界では、人件費を削らないことには話になりません。
各社とも、管理部門の人員を削減したり、乗務員を子会社の従業員に移管し労働条件を下げるなどして、何とかやり繰りして来ました。
しかし、コロナ禍を経て、人手不足、従業員の高齢化など、元々抱えていた「基礎疾患」が悪化し、これ以上の無理はできないとばかりに、減便や路線廃止を行う会社が増えています。
東運輸とて例外ではありません。
空港線4系統は、白保、宮良、大川、真栄里などの主要な集落と中心市街地を結ぶ生活路線も兼ねています。
その4系統だけを残して他の路線を全て廃止しても、生活に支障の出る石垣島民は、極僅かです。これが現実です。
そんな中、便数の多寡はともかく、全島くまなく巡らされている路線網は何時まで維持されるのか、予断を許さない状況に既に突入していると思います。
鉄道にしろバスにしろ、路線廃止となれば、必ず地元から反対運動が起こります。しかし、乗りもしないで廃止反対と言っても説得力はありません。
地元民がバスに乗らない中で、観光客需要に支えられて何とか凌いで来た、石垣島のバス会社、東運輸。
十年くらい先には訪れるであろう、自動運転まで、東運輸の奮闘は続くでしょうか。
※ 石垣市交通計画については、こちら。
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