2016年2月19日金曜日

沖縄移住についてまじめに考えてみた



 「そんなに何度も行くなら、沖縄に住んじゃった方が早いじゃん。」
 「もう、沖縄に移住したのかと思ってました。」

 なんてことを、よく言われるのです。



 プロフィールにも書いたとおり、沖縄に100回行きました。沖縄のことだけで当ブログも3年以上続いています。
 これほどまでに沖縄にはまった自分ですが、移住となると、ちょっと二の足を踏んでしまいます。
 もちろん、個人的事情や趣味の問題もあるのですが、それとは別に、「沖縄に住む」ということに対して、何か見えないバリアのようなものを感じているのです。

 それも、行けば行くほど、沖縄のことを知れば知るほど、そのバリアは簡単に突破できないような気がしてきたのです。

 そこで今回は、若い人や終の棲家を求める中高年に根強い人気の、「沖縄移住」について、まじめに考えてみました。




 かつて、沖縄移住ブームというべき現象がありました。2003年頃からです。
 石垣島では、人口が顕著に増加し、加えて、住民票は移さない幽霊人口が総人口の1割ほどもいたそうです。

 今でも大手書店に行くと、沖縄にターゲットを絞った移住ガイド本が何冊も並んでいて、驚かされます。こんなことは、他の都道府県に関しては見られないことです。

 何故、ここまで沖縄が移住先として人気があるのでしょうか。挙げられている理由は、

・ コーラルブルーの海に代表される沖縄ならではの豊かで美しい自然
・ 一年中花が咲く温暖な気候
・ 都会のような渋滞や混雑のないのんびりした生活
・ 長寿で健康的な食べ物
・ 息づく伝統文化
・ ネットの普及による都会と変わらない生活・文化水準

 もちろん、問題点も指摘されています。

・ 仕事が少なく賃金が安い
・ 物によっては物価が高い
・ 島外・県外移動が不便
・ 虫が多い
・ 台風などの自然災害が多い

 しかし、自分が感じているバリアとは、ここで挙げられているようなことではありません。沖縄に住むには、沖縄の、その地域の独特の文化に溶け込まなければならない、ということなのです。

 それは、都会(自分は「都会もどき」ですが)の生活に慣れた人にとっては、ほとんど未知の世界なのではないでしょうか。



 地域の文化、といっても、抽象的で分かり難いと思いますが、つまりこういうことです。

 竹富島で働いていた人は、「祭りなどの祭事・伝統行事が年がら年中ある。」と言っていました。その他にも、運動会・祝い事・自治会行事などに、準備や打ち上げも含めて参加が求められたそうです。

 もちろん、冠婚葬祭も盛大です。
 例えば結婚披露宴。

 ごく普通の人同志でも、何百人と式に招待することが、今でも時々あります。こうなると、知り合いのまた知り合いみたいな人まで呼ばれます。
 学校の体育館を借り(貸してくれるから凄い!)、主賓級は最前列で宴、その他大勢組は、遙か遠くの席で、配られるのも弁当とオリオンビール程度だとか。
 それでも呼ばれれば、最低限、行って受付を済ませて、それなりの祝儀を渡し、弁当を受け取り、周りの様子を見つつ、タイミングを見計らってフェイドアウトするのだそうです。




 要するに、人間関係がもの凄く濃厚なのです。
 そういう文化が、普通に根付いていて、新参者が、ほどほどの人間関係をキープしたくても、それは許されず、だからといって、積極的に飛び込んで行っても浮いてしまいます。

 そもそもが先祖崇拝で、一家、一族、集落、地域といった地縁血縁が重視される価値観・宗教観が根底にあります。
 地縁血縁が基となって形成されているコミュニティこそが、よそ者が俄に入室出来ないバリアであり、それは、絶対的存在ではないけれど、何となく、でも確実に存在する、やっかいな代物です。

 「ヤマト嫁」という言葉があります。
 「ヤマト」とは、復帰以前によく使われていた「本土」を指す言葉で、ヤマト嫁とは、沖縄の人と結婚して移り住んだ内地の女の人ことです。ヤマト嫁の話と言えば、ほとんどが苦労話として語られます。

 彼女達の中には、たまたま結婚相手が沖縄の人だっただけで、沖縄そのものをあまり知らずに行った人も多いのです。その結果、濃厚な人間関係に悩み、疲れると言います。
 宮古島・石垣島のような、そこそこ都会な島でも、常に誰かに監視されているようだと聞きました。

 このような沖縄の濃い人間関係は、最初は心地よく感じられます。美しい海と共に沖縄移住の誘惑を振りまきますが、いざ、行ってみると、見えないバリアに阻まれ、早々に退転する人がとても多いのです。

 三線が好きで、20代で神奈川県から石垣島に移住した女性は、「石垣はいいところ。でも、唯一の欠点は、周りの人がどんどん帰ってしまうこと。」と言っていました。その彼女も、5年ほど頑張りましたが、向こうで知り合った内地出身の男性と結婚し、その旦那の仕事の都合で大阪へと引っ越しました。




 「沖縄の人は、観光客には優しいが、移住者に冷たい。」ということをよく聞きます。本当に冷たいかどうかはともかく、これの意味するところは、「お客さんは歓迎する。でも、身内に加わりたければ、郷に入れば郷に従え。」と、こういったことなんだろうと解釈しています。

 もちろん、移住して、数年、十数年と、島で安定した生活を送っている人達が大勢いることも事実です。
 その人達は、人間関係形成に努力した結果、向こうで居心地のいいポジションを得たのだと思います。




 なお、誤解のないように言っておきますが、沖縄が住みにくいと主張しているわけではありません。沖縄は、自然だけではなく、社会も文化も魅力が沢山あります。だからこそ100回も行ったのです。

 ただ、オブザーバーではなく正会員になりたければ、それなりのステップを踏む必要があるということです。それは、移住希望者のほとんどが持ち合わせていないであろう、新たな価値感の共有というステップです。

 加えて、移住して帰って来た人を悪く言うつもりも毛頭ありません。その人達は、得がたい経験をしてきたのだと思うし、人それぞれの事情があって帰ったのでしょう。都度新たな進路を選択することは、むしろいいことだと思います。

 言いたいのは、沖縄に移住しても帰って来る人が多いという現実があること、それには、何らかの理由があるはずに違いない、という想像力を働かせほしい、ということなんです。




 沖縄は遠い島であり、内地と違う歴史を歩んできました。情報化社会などといってもみても、人の営みはそう簡単に変わるものではないのでしょう。

 このことは、離島に限らず、大都会那覇でも、本質的には変わりません。


 沖縄は確かに素敵な所だ。しかし、住むとなると、そこには異なる価値観という見えないバリアが存在し、それは、排他的なだけではなく、ある意味崇高なものかも知れず、そのバリアを超えられないならば、今の場所に住み続ける方が快適である。

 これが、100回通って肌感覚で理解した、自分なりの沖縄移住問題の結論です。




 沖縄移住を考えている人は、文化やコミュニティを十分理解し、それに溶け込む決心をしてから行くか、さもなければ、期間を決めるなどして退路を断たずに、取り敢えず長期間滞在してみることをお勧めします。

 そうでなければ、苦労するのは自分です。

 旅先で知り合った若い人が、散々沖縄を誉めちぎった上で「移住したい」と言うのを聞くと、つい、一言言いたくなってしまう、困ったオヤジ化現象が・・・

 

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