沖縄に行ってウミガメと一緒に泳ぐ。なんだかワクワクしますよね。
現地でもらえるフリーペーパー「ガイドブック宮古島」には、そんな広告が沢山あります。
ウミガメと並んで泳いでいる写真や、まるでウミガメと一緒に記念撮影をしたかのような写真が載り、ウミガメ遭遇率99%を謳っているショップもあります。
ウミガメは絶滅の危険があるとして保護されてきました。そんな保護活動が実って、宮古島に限らず沖縄の多くの島で、人が泳ぐような浅瀬に数多くのアオウミガメが生息し、しかも人間はカメを襲わないと学習したらしく、人が近づいても逃げなくなりました。
今回は、国も地域も観光客も、皆で大事に守ってきたウミガメにまつわる、ちょっと知りたくなかった、不都合な真実をお伝えします。
2年前の7月14日、久米島の海岸に、約30頭のアオウミガメが瀕死の状態で打ち上げられていました。
読売新聞が報じたところによれば、「『自分がやった』と名乗り出たのは、久米島漁協所属の刺し網漁師だった。海底に網を張り、引き潮で沖に戻る魚を捕る漁法。漁協の聞き取りに対し、『数頭は逃がしたが、網を外そうとすると暴れた。身の危険を感じ、弱らせて外そうと思った』」と説明した。」とのことでした。
これに対しては、酷いことをしたという非難の声もあった一方、漁師に同情する声も多く聞かれたそうです。
ご存じのとおり、ウミガメは保護の対象で、捕獲は規制されています。これは沖縄県に限りません。
まず、国立公園、国定公園の特別保護地区では、ウミガメの捕獲、卵の採取は禁止されています。
沖縄県の西表石垣国立公園、沖縄海岸国定公園・慶良間地域においては、特別保護地区より規制の緩い特別地域内でも捕獲・採取が禁止されています。
また、沖縄県は国立公園区域外でも、漁業法に基づき試験研究のためなどで承認を受けた場合のみ成体の捕獲を認めています。
そのほか、水産資源保護法、都道府県や市町村独自のウミガメ保護条例で捕獲や卵の採取を禁止しているケースもあり、ウミガメが産卵する海岸への車の乗り入れの自粛、監視員制度、普及啓発施策等といった形での保護を行っている自治体もあります。
何故ウミガメは、他の魚介類と比べて特別に保護されるのでしょうか。
理由の一つは、その数が減少しているとされているからです。
環境省の「レッドデータブック」、水産庁の「日本の希少な野生水生生物に関するデータブック」において、ウミガメ各種は絶滅の危険がある生物として掲載されています。
他に実質的な理由もあります。
アオウミガメは海草・海藻を食べます。
海藻が茂り過ぎると藻場は酸素不足、光不足になりますが、それをアオウミガメが間引くことによって、適正な状態が維持されると言われています。
オサガメはクラゲを食べます。
クラゲは魚の卵や幼生を食べますが、そのクラゲを食べてくれることで漁業資源が維持されます。
ウミガメは砂浜で産卵することで海から陸へ栄養を運びます。
ウミガメは約500個もの卵を産みます。 孵化せず砂の中で死んでしまった卵は、栄養素(窒素、リン、カリウム等)を浜辺の植物に供給する役割があるそうです。
そんな訳で、ここ2~30年の間保護されてきたウミガメですが、もし、その前提が崩れてしまったらどうでしょうか。
これも読売新聞が2年前に報じたことですが、西表島など八重山諸島のみに群生するウミショウブが激減しているそうです。
ウミショウブは、夏に雄花を放出し、それが海面に白いじゅうたんを敷き詰めたように見えるため観光客に人気で、NHKの「ダーウィンが来た!」でも紹介されたことがありました。
そんな光景が、近年ほとんど見られなくなってしまいました。理由は、アオウミガメによる食害です。同じことを今年、朝日新聞も報じていました。
ウミショウブが生息する藻場は、魚やイカが生息・産卵するする場所なので、漁業への影響も出ています。
石垣島周辺では、海草を餌とするアイゴの漁獲量もまた激減しています。アイゴの稚魚の塩漬けは、沖縄料理のスクガラスにもなります。
では、アオウミガメは増えているのでしょうか。
ウミガメの研究をしている黒島の黒島研究所によると、黒島周辺海域の生息数が2010年に約200頭だったのに対し、2019年には約400頭に倍増しているそうです。
国内最大のウミガメの産卵地・小笠原諸島も同様で、小笠原海洋センターによれば、自然孵化した数は、1984年の約5000頭から、2015年には5万頭超まで増えたのだとか。
そうなると、少なくともアオウミガメに関しては、保護する前提が崩れているように思えます。
ウミガメが増えたことは、個人的にも実感しています。
ほぼ毎年行っている黒島ですが、3~4年ほど前から、簡単にウミガメを見つけることができるようになりました。
伊古桟橋とか、灯台付近に満潮時に行くと、10分も待てばほぼ確実にカメが現れます。
以前は、偶然見かけると、ラッキーとばかりに夢中になって写真を撮っていたのですが。
沖縄や小笠原では、古くからアオウミガメを食べる食文化がありましたが、そのための乱獲や産卵地の環境悪化で数を減らしていきました。
そんな中、1991年に環境省のレッドリストに掲載されたことで、保護の機運が高まります。
沖縄県では、今でも食用として、年間200頭のアオウミガメの捕獲枠があります。
しかし、保護が進む中、カメを食べるという食文化自体が衰退し、また、昔は和風旅館などでよく見かけたカメの剥製を飾る習慣もなくなり、誰もカメを獲らなくなったそうです。
その一方、アオウミガメの天敵であるサメは、マグロやアカマチなどの高級魚を守るために駆除される傾向にあるため、アオウミガメにとって日本の海は、パラダイスになっているのだとか。
シュノーケリングをしながら近づいてくる観光客は、自分達を捕まえないことを学習したので無視している、というのが実態のようです。
一部の学識経験者は、捕獲制限を緩めるなどして、適正な数にコントロールする必要があるなどと言い出しており、環境省も、保護対象だったアオウミガメについて、将来的な個体数調整などの可能性を検討しており、その際は、食用として活用することも視野に入れるそうです。
ちなみに、小笠原では今でもカメ料理が食べられていて、年間100頭ほどのアオウミガメが食用に捕獲されています。
ウミガメとカクレクマノミは、沖縄でシュノーケリングをする人達にとって、アイドル的存在です。
ウミガメは保護されてきましたが、現在ほとんど規制のないカクレクマノミが、イソギンチャクごと捕獲され、観賞魚として取引される事例が増えていると言われています。
皆で大事にウミガメを守ってきた。おかげで数も増えた。人は襲わないということを学習したカメは一緒に泳いでくれるようになった。メデタシメデタシ。
そう信じたかったのに、現実はシビアです。
もし、翻訳アプリでカメ語を翻訳できたら、「みんなのおかげでボク達も仲間が増えたよ。お礼に一緒に泳いであげるね。」と口では言いながら、内心では、(ケケッ 人間なんてチョロいもんだぜ)なんて思っているのかも。
※ この記事は、読売オンラインのほか、環境省HP、黒島研究所HPなどを参考にしました。
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