2018年11月28日水曜日

泡盛考(泡波とボジョレー・ヌーボー)


 質問です。
 沖縄で飲む泡盛やオリオンビールは旨いと思いますか?
 イエスかノーでお答えください。

 自分は、イエスです。




 ポイントは、「沖縄で飲む」という部分です。向こうで飲んで旨かったから、お土産に買ってきたけれど、大したことなかった、なんていう経験はありませんか?

 沖縄で飲むから旨いのです。
 それは、気のせいだろって?
 そうかも知れません。でも、沖縄で飲む泡盛は旨い、というのは多くの沖縄通が口にする言葉です。
 単なる気分の問題だけではなく、暑くて湿度が高くて風が強い、そんな沖縄の風土には泡盛が合うのかも知れません。



 そんな泡盛の中で、常に一目置かれれている存在が、波照間酒造所の「泡波」です。

 波照間島で造られていて、島外には販路がなく、現地以外では入手困難なため、プレミアムが付いてしまいます。
 かつて、泡波の一升瓶が、東京で10万円したなどいう都市伝説もありましたが、今でも関東地方の沖縄料理店では、100ミリボトルが1500円くらいの相場です。




 再び質問です。
 泡波は他の泡盛より旨いですか?
 これは、イエスかノーでは答えにくい問題ですよね。自分なら、「どちらとも言えない」です。

 でも、ググってみると、口当たりが良いとか、スッキリした飲み口だとか、軽くてフルーティーだとか、そんなコメントが結構見つかりました。
 中には女性向きであるなどという評価も。

 本当ですか!?

 女は、酒に弱いからソフトな風合いの酒が向いている、ということが言いたいのでしょうが、今時そんなことを言ったらぶっ飛ばされそうだし、仮にぶっ飛ばされなかったとしても、泡波が女性向きあるとはちょっと思えません。


 確かに、泡波は軽いかもしれません。軽いというのは、口に含んだときの刺激が少し弱い感じがする、ということです。同じく軽いと言われる八重泉よりも、さらに軽いような気がします。
 でも、その差は、本当に僅かなもので、両者を真剣に飲み比べなければ感じない程度のものです。

 泡波の瓶に入った請福や八重泉を注がれても、自分は、絶対に騙されてしまう自信があります。笑





 「泡波が旨い」などという話を聞くと、ついボジョレー・ヌーボーを思い浮かべてしまうのです。


 ボジョレー・ヌーボーは、今更語るのもはばかられるほど有名なワインですが、フランスのボジョレー地方で、秋に収穫されたガメイという葡萄を原料に、大急ぎで仕込んだ新酒の赤ワインです。

 解禁日は、11月第3週の木曜日と決められているため、極東の日本は、先進国の中で一番早く飲めるとあって、この日は毎年お祭り騒ぎです。

 
 しかし、秋に収穫した葡萄で造った酒が、11月中旬に製品として出回ることは本来はあり得ず、加糖するなど、特別な製法で大急ぎで造られています。
 しかも、輸送に時間をかけるわけにいかないので、航空便で運ばれてきます。なので、その分値段も高くなります。


 ボジョレーの初飲みとは、本当にワイン好きな人が、「今年もフランスで葡萄が実りワインが出来た」ことを祝うお祭りイベントです。

 そんなにワインが好きなわけじゃないけれど、あのお祭り騒ぎに参加するのが楽しい、という人もまあいいでしょう。でも、ボジョレー・ヌーボーは、「フレッシュで美味しい」とか、「フルーティーで美味しい」などと言って人に勧めるのは、ちょっとどうかと思います。



 翻って泡波はどうでしょうか。

 泡波は、お祭り騒ぎをして飲む酒ではありませんが、この酒が、「絶海の孤島にある個人経営の小さな酒造所で造られた」ことに愛おしさを感じられれば、それは、「今年も葡萄が実りワインが出来た」という高揚感に通じるような気がするのです。


 波照間島は、生活物資のほぼすべてを石垣島からの海上輸送に頼っていますが、一度海が荒れれば、何日も船が欠航し、不便を強いられます。

 そんな波照間島にあって、酒だけは自給自足出来ちゃうんですよ。
 竹富町にある唯一の酒造所が、竹富島でも西表島でもなく、波照間島にあるんですよ。

 これって、凄いことだと思いませんか。


 


 泡盛は、米焼酎の一種です。
 米の主成分はでんぷんなので、麹菌の力により糖分を含んだ酒母を造ります。泡盛造りには、暑さに強い黒麹が使われます。

 その後、酒母に酵母菌を加えて醪(もろみ)を造り、それを蒸留させて泡盛となります。

 大元となる原料の米は、酒造組合が一括して買い上げた、タイ米の単一品種が使われています。つまり、泡盛の原料は、ごく一部を除き、すべて同じなのです。

 しかも、蒸留酒ですから、何処の酒造所で造っても、ほとんど同じ物が出来る、それが泡盛の特徴です。

 黒麹菌、蒸留の仕方(蒸留器の違いや加熱の方法)、加水する水の種類などによって、ごく僅かな違いが生じるだけです。




 「そんなことも知らずに、やれ泡波が旨いとか、やれ久米仙がどうだとか講釈を垂れる日本人の何と多いことか。」
 「今こそすべての日本国民に問います。泡盛の味の違いがわかりますか。」

 「ボーッと飲んでじゃねーよ。」
 
(失礼しました。突然思い浮かんじゃったんです。笑)





 酒は、酔っ払うための水ではありません。味わって飲むべきです。
 ただ、その味わい方には、香り、味覚、喉ごしだけではなく、思い入れがあってもいいと思います。

 「あの波照間島で造られた酒」という思い入れがたっぷり入れば、泡波は、とても味わい深い酒となるでしょう。

 それならば、敢えて高い金を払って飲むのもアリかもしれません。




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