2020年1月17日金曜日

神の島久高島 美しい海と秘められた歴史




 那覇から東南東におよそ15㎞、安座真港から船に乗って久高島へと向かいます。那覇からこんなに近いのに、離島の魅力満載の美しい海が出迎えてくれました。

 琉球創世の神、アマミキヨが、天から降りてきて国づくりを始めたという、琉球神話誕生の島、神の島です。



 
 久高島は、外周約8㎞。実は、竹富島より小さな島です。
 最大標高が17mとこれまた平坦な島。歩いて、若しくは自転車に乗って、十分見て回ることができます。

 四方を美しい海に囲まれています。那覇からそう遠くないにも拘わらず、静かで落ち着いているのは、神が守っているからでしょうか。
 でも、一部の立入禁止区域を除いて、観光客も普通に受け入れてくれます。宿泊施設もあります。





 この島には、沖縄電力所有地を除くと、私有地というものがありません。海岸、道路用地などの公有地以外は、島内の土地を一括して、自治会である字(あざ)で総有しています。総有とは、構成員が持ち分を持たずに共同で所有するもので、原始的な所有権の形態です。

 琉球王朝時代の「地割制度」が今なお残っている、沖縄で唯一の島なのです。

 島民は、字総会の許可を得て家を建て、土地を耕し、島を出る際は、その土地を字へ返します。




 1713年に編纂された「琉球国由来記」には、島の東にある伊敷(イシキ)浜に流れ着いた壷(瓢箪という説も)の中に五穀の種子が入っていたと記されています。
 五穀とは、米・麦・粟・黍(又は稗)・豆を指します。「五穀豊穣」などという言葉を耳にすることがあると思います。

 五穀の種子は、ニライカナイから神が使わしたものとされ、伊敷浜は、沖縄における五穀発祥の地とされています。


 これが、五穀の種子が流れ着いたとされる、伊敷浜です。




 かつて、久高島には、イザイホーという秘祭がありました。

 イザイホーとは、12年に一度、午(うま)年の旧暦11月、島の30歳以上の女性が、ナンチュになるための神事です。
 ナンチュになると、一人前の女性として、神として認められ、家族を加護する神的な力を得るとされます。

 この母性原理に基づくイザイホーは、民俗学的には大変貴重な儀式とされていますが、1978年を最後に、以後行われていません。

 一般には、「後継者の不足のため」、と当たり障りなく説明されていますが、ナンチュ、すなわち神になった女性は、70歳で引退するまで、島を出てはならないなど、生活上の様々な制約を受けることになるため、ナンチュになる前に皆島を出てしまうことが一番の原因だそうです。

 また、秘祭であって 儀式の祝詞や段取りは文書化されず、ノロウメーギを中心に伝承されていたので、ノロウメーギが亡くなると、それを引き継ぐ人がいないという事情も重なったとか。
 ノロウメーギとは、神職の名であり、最高位のノロの補佐役とされた人です。


(母たちの神 比嘉康雄展より引用)


 ただ、イザイホーは消滅したわけではなく、午年が訪れる度に、「わびの拝み」を行って、神に中止の許しを請うているのです。



 久高島には、古くから「男は海人、女は神人」の諺があります。

 海人であった男達は、カツオを追って遠く奄美諸島まで遠征し、向こうで現地妻を設ける者も多かったとされています。

 命がけで海を渡る代わりに、貧しかった奄美の地で島妻を囲う男と、久高島に閉じ籠もって、神力で家族を加護する女。

 こうした歴史を背景に持つ神事は、それがいくら神聖であっても、いくら文化的に貴重であっても、現代社会において手付かずのまま継承していくことは、もはや、不可能なのだろうと素人ながらに思います。


 

 20年ほど前に、沖縄コミュニティ・アイランド事業という名称の、日本の何処にでもありそうな補助事業で造られた、これまた何処にでもありそうな遊歩道と四阿。

 神の島にも、ありふれた公共事業の波が押し寄せています。



 宮古島の隣の大神島も、八重山の新城島も、神の島と呼ばれる島です。
 しかし、久高島が特別なのは、やはり琉球王府に近い存在だったからでしょう。


 かつて秘祭が行われ、今なお竹富島を凌ぐ数の神事が行われている島。島民が一人として自分の土地を持たない沖縄唯一の島。神の島久高島。
 
 それでも、普段は、ノンビリした沖縄離島であることに変わりはありません。
 島の歴史に興味がある人も、人のいない美しい海をボーッと眺めたい人も、一度足を運んでみてはいかがでしょう。




 今回の記事は、琉球新報、Wikipedia等のネット記事のほか、沖縄県立博物館・美術館刊「母たちの神 比嘉康雄展」を参考にしました。



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