10月上旬のある日、黒島の民宿では、珍しく全員ひとり旅の客7人が夕食の食卓を囲みました。連泊の人5人に、その日にチェックインした人が2人。
連泊組のうちの1人は、一旦チェックアウトし、波照間島に渡るべく船に乗り込んだところ、何とエンジントラブルで石垣港に引き返すというアクシデントがあり、夕方になって急遽黒島にもう1泊することになったという、凄いハプニングに見舞われたのです。
期せずしてゆんたくの席に格好のネタを持ち込んだ形となり、場は大盛り上がりでした。
そんな中、その日チェックインした女子は、あまり皆とおしゃべりすることもなく、食事が終わってそそくさと部屋に戻ってしまいました。
元々全員初対面なわけですが、旅慣れた人もいて、初参加の人にそれなりに気を遣ってはいたのですが、無理に引き留める訳にもいかず、まあ仕方ないね、ということで残ったメンバーでゆんたくを続けます。
小1時間ほどすると、件の彼女が宴席に戻って来て、自分も参加していいですかと。
聞けば、沖縄に来たのも民宿に泊まったのも初めてで、こんな風に知らない人同士が盛り上がるなんて想像していなかったけど、楽しそうだから加わりたくなったとか。
正直この言葉は嬉しく、宿の宴会終了時間(のはずの)11時を超えてもまだ話に花が咲きまくり。
翌日、これまた珍しいことに、彼女以外は全員がこの日でチェックアウト。
たまたま午後の便で石垣島に渡る予定の自分が、黒島初めての彼女を半日ほど自転車で案内することになりました。
関心事は当然、初めての沖縄でよく思い切って黒島まで来たよね、ということになるのですが、そこに至るには複雑ないきさつがあったのです。
年齢は聞いていませんが、アラサーくらいの見た目です。あまり目立たない地味な人という印象でした。
キャラ的にも、特別明るくもなく、かといって暗くもない、普通の人という感じです。
実は、彼女は、大学卒業後就職するもすぐに辞めてしまい、いわゆる引きこもりになってしまったのだそうです。
詳しくは聞いていませんが、若い女性にありがちなことが、こじれてしまったのが原因なのかもしれません。
長い間家にこもって何もしなかったと言っていましたが、20代という人生の輝かしい時期に何もできなかったというのは、さぞ辛い経験だったことでしょう。
家族や友人の支えもあって、徐々に回復期へと向かいますが、そんな折り、彼女は自身を荒療治へと追い込みます。
何と一人でピースボートの船に乗って、世界一周の旅に出たのです。
ピースボートクルーズは、国際交流を目的として世界一周の船旅をするもので、単なる観光旅行とは違います。寄港先の国では、必ず交流パーティーが開かれるそうです。
政治的意味合いから一歩引く人もいますが、実際には、スイートルームに泊まるお金持ちから、キャビンのような部屋に寝泊まりし、労働奉仕を条件に格安で乗る人まで様々な人達が一堂に会する、不思議な空間なんだそうです。
主催は日本ですが、外国人も多く、老若男女、Ladies & Gentlemanからパリピな人まで、文字どおりの十人十色だったようです。
中には男女の仲になる若い人達がいるなど、何をしても、何もしなくても全て受け入れられるという、国内とは違う自由社会がそこにはありました。
ラウンジには、酔い止め薬が山のように積んであって、酔い止めバー状態だというエピソードは面白かったですね。
自分は、船の中でも引きこもっていたと笑っていましたが、敢えて特別な空間に身を置いたことで、長年の苦しみから脱却するきっかけを掴んだようです。
世界一周の話をするときの彼女は、本当に楽しそうでした。
引きこもりとは、病名ではなく、そういう状態を指す言葉です。原因は様々であって、原因を追及してもあまり意味はないとされています。
引きこもることで精神が病んでしまうことも多いそうですが、彼女の場合、自ら思い切った決断をしたことで、苦境を脱しました。
ただ、「たまたま自分はそうだっただけで、必ずしも頑張ればいいというわけではない。」という本人の言葉を、ここで書かせてもらいます。
その後、都内の会社に就職し、普通にサラリーマン生活を送っていましたが、短い間に目まぐるしい環境変化を経験して、少し疲れたため、休暇を取って癒しの旅に出ようと思ったそうです。
そのとき知人からの「ノンビリするなら沖縄の黒島に行って民宿に泊まるといい」とアドバイスを受けて、人生初沖縄が黒島になったという顛末でした。
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