2021年を振り返って、どうしても納得できなかったことがあります。それは、この一年間の石垣市、宮古島市、沖縄県の、観光客に対する冷遇ぶりです。
理由とされたのは、コロナです。
ですが、沖縄でコロナが蔓延したのは、本当に観光客が原因だったのでしょうか。何故行政は、観光客を狙い撃ちにするかのような仕打ちをしたのでしょうか。
この1年を振り返って、分析してみたいと思います。
沖縄でコロナが蔓延したのは本当に観光客が原因なのか
沖縄でコロナが蔓延したのは、観光客が大勢押し寄せたからだ、という論調は流行の当初からありました。
過去記事でも紹介しましたが、マスコミによく登場する、沖縄県立中部病院の高山義浩医師は、沖縄のコロナ蔓延は、観光客だけが原因ではなく、様々な複合的要因があったとしています(3月31日付けYahoo!ニュース)。
我が意を得たり、という気分だったのですが、その後も観光客性悪説は収まりません。
例えば、感染症の専門家で政府の分科会委員の某教授(日頃テレビを見ている人にはお馴染みの顔です)ですら、NHKの全国ニュースで「沖縄に関して言えば、第4波は、GWの観光客が原因と考えられる」などと発言していたのです。
しかし、本当にそうなんでしょうか。
次のグラフをご覧ください。ちょっと見にくくて申し訳ないのですが、客観性を保つために公表されているデータをそのまま引用します。
(東洋経済オンライン「新型コロナウイルス国内感染の状況」から)
これは、沖縄県における実効再生産数のグラフです。実効再生産数とは、一人の感染者が平均して何人に感染させたかを表す指標です。
第4波における実効再生産数のピークは、5月15日の1.56でした。この日に1人の感染者が、平均1.56人に感染させた計算になります。
これは、今年のGWの最終日であった5月5日よりも、10日ほど後のことです。
しかも沖縄は、GW明けにすぐに梅雨入りするため、観光客は減少します。気象庁によれば、今年の梅雨入りは5月5日頃、平年は5月10日頃とされています。
つまり、沖縄では、観光客が減った頃に感染者が増え出したということです。
※ 実効再生産数について
普段、マスコミ等でお馴染みなのは、日々の感染者数だと思いますが、感染者数は、
感染 → 潜伏期間 → 発症 → 受診 → 検査 → 陽性判明 → 報告 → 発表
という手順を経るので、感染から発表まで、10日から2週間のタイムラグがあると言われています。
そこで、感染者発表から遡って、再生産数(既に感染している人が新たに何人に感染させたか)を割り出します。これは、8割おじさんとして有名な西浦博教授のモデルによるものです。
したがって、ある期間の実効再生産数のピークは、実際の感染のピークと一致すると考えられています。
もう一つグラフを見てください。
こちらは第5派における実効再生産数です。この時のピークは、7月31日の2.12でした。
今年は、7月にオリンピック4連休(7月22日~25日)があり、GWと同様に観光客が増えて感染者数も増えると言われていました。
しかし、この頃の実効再生産数は、右肩上がりで増加中ですが、連休期間中に特に増えた形跡は窺えません。
それどころか、もっと重要な事実があります。この時沖縄には台風6号が接近していたのです。
(沖縄地方気象台ホームページから)
宮古島は23日に台風の目に入り、比較的影響の少なかった沖縄本島でも、22日・23日はほとんどの航空便が欠航しました。
したがって、このとき沖縄の観光客数は、前後の平日と比べても激減したはずですが、感染状況に変化はないのです。
さらにもう一点、付け加えます。
これも過去記事で紹介したとおりが、沖縄県が発表している、感染者の居住地別のデータがあります。
記事にした9月9日時点のデータでは、沖縄県内の感染者の累計数46,506人のうち、他県居住者の感染者は379人で、率にして0.81%に過ぎないのです。
(12月4日現在でも同じ)
と言うことは、内地から短期間沖縄に来た人で、沖縄滞在中にコロナを発症した人はほとんどいないということです。
これは、氷山の一角だろう、感染していても無症状で、ウイルスをまき散らして帰っていた奴もいるんじゃないか、という意見もありそうです。
氷山は、海に浮いている部分は全体の7分の1から8分の1だそうですが、仮にこの数字を8倍したところで、0.81×8=6.48%にしかなりません。
以上をまとめると、
第4波では、観光客が減った頃に感染のピークを迎え、
第5派では、観光客が減った期間でも感染のペースは変わらず、
トータルでは、内地から来て沖縄で発症が確認された人は僅かしかいない、
ということになり、結論としては、沖縄でコロナが蔓延したのは観光客が主原因ではない、ということが強く推認されるのです。
少なくともこれらはことは、沖縄でコロナが蔓延したのは観光客が原因だとする主張の信頼性を攻撃する、裁判で言うところの弾劾証拠になり得ると思います。
弾劾証拠とは、ある証拠の証明力を弱めることになる別の証拠という意味です。
行政はどう対応したのか
しかしながら、石垣市、宮古島市、沖縄県の対応は、まさに観光客性悪説です。
石垣市は、
「市としては、陰性証明、ワクチン接種証明の提示は義務との位置付けだ。観光客は全員必ず検査や接種を受けて来島してほしい。」(沖縄タイムス6月22日)
法律を勉強したことがある人は、これヤバイんじゃない?と直ぐに気が付くでしょう。
法令の根拠なく、市長が国民に義務を課すことは絶対にあり得ません。
石垣市役所には、誰も市長を止める人はいなかったのでしょうか。
宮古島市は、
「世界最悪の感染地域になった、観光客らに緊急事態宣言中の来島は止めていただきたいと強く求めた。」(沖縄タイムス8月19日)
確かにこの直前、宮古島や石垣島では感染者数が急増していました。市長としても厳しい状況であっただろうと想像できます。
しかし、世界最悪になっても、市民に呼びかけるのではなく、真っ先にターゲットにしたのは観光客です。
しかも、宮古島市は、主要ビーチの駐車場閉鎖を始めます。観光客が来ても海では遊ばせないというのは、果たしてコロナ対策なのでしょうか。
経験したことのない未曾有の事態だから、考えられる対策は何でもするという話なら、まだ分からなくもありません。
しかし、石垣島の中心市街地の一部飲食店では、明るい時間帯から深夜まで、ずっと客が酒を飲んでいました。
自分が目にしたのは7月でしたが、島の人によれば、夏中営業していたとのこと。
コロナ対策をするのであれば、まずこういう場所に手を付けるべきではないでしょうか。観光客に義務とか何とかいうのは、順序が違いませんか。
また、宮古島市長の世界最悪宣言の記事(沖縄タイムス)には続きがあります。
”市の担当者は、ルールを守らず酒類を提供している飲食店での感染が深刻化していると説明。接客業や建設関係で来島し滞在中の人にも感染が拡大しているとし「できるだけ外出を控え、他の人との接触を避けてほしい」と求めた。”
バブルを引きずって建築工事が止まらない宮古島。島内には、工事関係者が多く滞在し、夜はドンチャンやって店の人と共に感染を広げているとの認識です。
問題点がはっきりしているのに、工事関係者やリゾートバイトの一時帰還は求めないのでしょうか。
沖縄県は沖縄県で、8月1日から「沖縄ブルーパワープロジェクト」なるものを始めました。
陰性証明かワクチン接種証明で、施設や飲食店で割引が受けられるというものです。
インセンティブを与えて、望ましい方向に導くというのは、行政活動の一つのスタイルです。
ですが、その証として、観光客にリストバンドをしろというのです。「新しい観光スタイルの目印」なんだそうです。
ちょっと想像してみてください。迎え入れる県民の側は、リストバンドをしていないのです。一目でよそ者だと区別するシステムです。
しかも、観光客しか来ないような店にリストバンド無しで行けば、陰性証明無しですと晒すようなもの。こんなことに耐えられますか。
もし、これを人権問題に敏感な欧米でやったら、暴動になるかも知れません。
しかも、しかも、ここまでさせるのだから、観光客を歓迎するのかと思いきや、感染者が増えた途端、手のひら返しで来訪は自粛しろというのです。
もう、県も市も、一体何をやりたいのか分かりません。
※ 追記
沖縄ブルーパワープロジェクトは、観光協会や経済団体が主催し、県が後援したものです。行政が主体になって行ったものではなく、その点、上記は一部記載が不十分でしたので追記します。
ふと、こんなことが頭をよぎりました。
毎日唐揚げやポテチをつまみにビールをしこたま飲んで、〆にラーメンとチャーハンをを食べていたら、体重が100㎏を超えてしまったので、「ダイエットのために毎日15分歩くことにしました」と言う人を見てどう思いますか。
痩せたかったら、「まず食べる量を減らせ」だと思いませんか。
必ず検証を
なんでこんなことになってしまったのでしょうか。
東京にいる専門家なら、地方の事情が分からず一般論をしゃべったとも考えられます。しかし、県や市なら、沖縄の実情を分かっているはず。
観光立市、観光立県の石垣市や宮古島市、沖縄県が、何故こんなに観光客を邪険に扱うのか本当に不思議です。
このことについては、島の人達や、沖縄好きの人達とずいぶんと話しました。
真剣な議論ではなく雑談程度ですが、島の人と話していると、「市は何も考えていない」という人が結構いました。
もちろん、何も考えていない訳ではないでしょうが、それでもそう思う人が多いのは、痒いところに手が届いていないと感じていたのかも知れません。
選挙権のある市民・県民には強いことを言い難いので、顔の見えない観光客をスケープゴートにして、やっている感を演出したのではないか、という辛辣な見立てもありました。
どちらにせよ、あまりいい印象を持たれていないようです。
もちろん、観光客なんて来なくて結構という人もいたでしょう。観光業とは無縁な人にとっては、「よりによってこんな時に来るな」というのが本音かも知れません。
それでも、大所高所から、冷静、かつ、適切な対応をするのが、県や市の役割ではないでしょうか。
今まで経験したことのない事態に見舞われ、国から一個人に至るまで右往左往したこの2年間。
県や市の対応が最適ではなかったとしても、それはやむを得ないと思います。
ただ、事あらば真っ先に切られるのが観光客だと思うと、沖縄好きで150回近く通った身としては、残念でなりません。
感染者数は、今は落ち着いていますが、第6波とか、オミクロン株とかマスコミが騒がしい状況が続いています。
これまでのコロナ対策を必ずや検証し、今後に供えていただきたいと切に希望します。
下の図は、10月5日の、全日空87便羽田発宮古行きの当日の空席状況です。この青色は全て空席です。
(全日空アプリから)
平日とはいえ、沖縄はまだ夏の10月の初旬。10月といえば、感染者数も激減し、緊急事態宣言も解除済みです。航空会社は、破格のセールを行いました。
それでも、宮古直行便がここまでガラガラだったのです。
世界最悪宣言やビーチ閉鎖は、過剰なコロナ対応ではなかったのか、それによる副作用はなかったのか、陰で泣いた観光関係者はいなかったのか、必ずや検証をしていただきたいと思います。
さて、こんな年ではありましたが、自分はほぼ例年通り7回沖縄に行きました。
幸いなことに、直接接した人は、一人として観光客丸出しの自分に対して冷い態度を取ることはなく、そのことで不愉快な思いをすることは、ただの一度もありませんでした。
行政の対応には様々不満がありましたが、本当は、お礼を言わなければいけないのかも知れません。
「ほかの観光客につれなくしてくれたおかげで、リーズナブルな価格でゆったり沖縄旅行が楽しめました。ありがとうございました。」と。
※ 高山医師の見解を紹介した記事はこちら(後半の方です)
※ 沖縄県のデータを紹介した記事はこちら(後半の方です)
※ 石垣島の対応を紹介した記事はこちら
※ 宮古島の対応を紹介した記事はこちら
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